出雲観光ガイド

日本酒発祥の地 出雲

出雲神話や出雲国風土記の記述に見られるように、古来より出雲の地と日本酒は強い結びつきがありました。出雲が「日本酒発祥の地」と呼ばれる所以やゆかりの場所をご紹介します。

神話「ヤマタノオロチ伝説」の八塩折の酒

八岐大蛇(ヤマタノオロチ)は日本最古の歴史書「古事記」や「日本書紀」に記されている日本神話で、一つの身体に頭と尾が8つもある怪物「八岐大蛇」を須佐之男命(スサノオノミコト)が退治するという有名なお話です。
出雲の地に降り立った須佐之男命は酒を醸して大蛇をおびき寄せ、大蛇が酔いつぶれたところを剣で退治し稲田姫を救います。この時大蛇に飲ませたのが「八塩折(やしおり)の酒」です。
八塩折の意味を解くと、水の代わりに酒を使って何度も繰り返し醸した酒といった意味合いになり、かなり濃厚なお酒だったのではと想像できます。八つの谷と八つの峰を覆うほどの大きな大蛇が酔いつぶれるほどですから、アルコール度数も相当高かったのではないでしょうか。
いずれにしても、神話の時代からこの地には高度な酒造りの技術があったことが伺えます。

ヤマタノオロチ伝説に因んだ出雲のお酒

出雲富士 純米大吟醸「天の叢雲(あまのむらくも)」(富士酒造)

八岐大蛇に例えられる「斐伊川」の伏流水と、須佐之男命の御魂を祀る須佐神社がある出雲市佐田町で栽培された山田錦で醸したお酒。
「天の叢雲」は八岐大蛇を退治した際に大蛇の尾から出てくる剣で三種の神器の一つ。山田錦を35%まで磨き上げた贅沢な味わいが楽しめる。

酒造りの神様「佐香(さか)神社(松尾神社)」

奈良時代に編纂された「出雲国風土記」には、
「佐香の河内に百八十神等集い坐して、御厨立て給いて、酒を醸させ給いき。即ち百八十日喜みづきて解散坐しき」
という記述があります。これは「河に包まれた佐香の地にたくさんの神々が集まり、調理場をつくり、酒を造らせて180日にわたり酒宴を楽しまれた」という訳になり、古代からこの地と日本酒に深い関わりがあったことが分かります。

佐香の地は現在の出雲市小境町周辺にあたり、また「佐香」は「酒」の語源となる言葉であることからも、ここが日本酒発祥の地であると考えられています。
その伝承を裏付けるように、小境町には約1300年の歴史を持つ佐香神社があり、酒造りの神様クスノカミを祀っています。

神社では年に1石(180L)ほどの酒造が許可されており、宮司が杜氏をつとめ、にごり酒を醸します。毎年10月13日の例大祭には濁酒祭が開かれ、仕込まれた濁り酒を神前にお供えし、参拝客にも振る舞われます。この日は全国から酒造関係者が集い、祈願祭も行われています。

神様たちの酒宴の地「万九千(まんくせん)神社」

旧暦10月の神在月、全国の神々が出雲の地に集まり、縁結びの話し合いといった神議り(かみはかり)が行われます。我々人間が仕事や行事の後に飲み会を開くように、神々も神議りが終わると「直会(なおらい)」と呼ばれる酒宴がはじまります。万九千神社は神々が最後に滞在し、直会を開くお社です。
神々はここでお酒を酌み交わして来年また会うことを約束し、10月26日の神等去出祭(からさでさい)にそれぞれの地に旅立って行かれます。


出雲の酒造り

日本酒発祥の地ともいわれる出雲では、出雲杜氏と呼ばれる杜氏集団を中心にその酒造りも独自の文化を歩んできました。出雲の味を醸し続けてきた、出雲杜氏と島根県の酒米についてご紹介します。

出雲杜氏について

酒造りのプロフェッショナル集団の手によって造られている日本酒。
その酒造りの現場を取り仕切る責任者を「杜氏(とうじ)」、杜氏のもとで酒造りに従事するその他の技術者を「蔵人(くらびと)」と呼びます。

酒造りは元々、農業従事者が冬の農閑期の仕事として酒蔵へ出向いて行っていました。その後、派遣される蔵元の選定や技術の共有化が行われるようになり、自然発生的に杜氏集団が生まれたと考えられています。

島根県には出雲杜氏と石見杜氏の二つの杜氏集団があり、出雲杜氏は県東部の出雲地方、石見杜氏は県西部の石見地方を中心に酒造りを行っています。
出雲杜氏が所属する出雲杜氏組合は、大正5年に「秋鹿杜氏組合」として創設されました。大正14年には出雲杜氏組合と名称を改め、昭和14年には赤名杜氏(雲南杜氏)組合と合わさり、現在まで100年以上続いています。

出雲杜氏の造る昔ながらの酒は酸度が高く、アミノ酸由来のうま味や甘味、渋み、苦味などがバランスよく混ざり合ったどっしりとした味わいが特徴の一つで、口に含むと複雑な味が広がります。濃い味付けの料理にも負けない力強さがあり、さしみ醤油などに使われる濃厚な再仕込み醤油ともよく合います。

近年は造りの種類の多様化してきて、出雲杜氏の酒質を継承しつつ、口当たりのよいスッキリと端麗なタイプのお酒も造られています。

酒米について

日本酒の原料となるお米は、我々が日常的に食するコシヒカリなどの飯米で造ることもありますが、多くは日本酒づくりに適した「酒造好適米(酒米)」と呼ばれるお米を使います。
島根県の日本酒は使用する酒米の種類が多いことも特徴の一つ。ここでは出雲の酒蔵で使われている代表的な酒米をご紹介します。
(ご紹介するのは一部であり、今後変わる可能性もあります)

出雲の酒に使われている主な酒米

《島根県産の酒米》

◯改良雄町(かいりょうおまち)
酒米のルーツともいわれる「雄町」の改良して生まれた品種。

◯佐香錦(さかにしき)
酒造りの神様を祀る佐香神社に由来して命名された。島根県で改良された「改良八反流(かいりょうはったんながれ)」と長野県生まれの「金紋錦(きんもんにしき)」を交配した酒米。

◯神の舞(かんのまい)
新潟県産の「五百万石(ごひゃくまんごく)」と長野県産の「美山錦(みやまにしき)」を交配した酒米。

◯縁の米(えにしのまい)
島根県が15年かけて開発し、山田錦をルーツに持つ。2020年から栽培が開始された新しい酒米。

《その他主な酒米》

◯山田錦(やまだにしき)
兵庫県で開発された酒造好適米で、全国で最も使用割合の多い酒米。

◯五百万石(ごひゃくまんごく)
新潟県で開発された酒造好適米。山田錦に次いでよく使用されている。



出雲の酒蔵